新しいコンビネーションが見つかる場にイノベーションは生まれる|ワークシフト研究所 国保 祥子 氏インタビュー(後編)

2016/12/06 インタビュー&レポート

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静岡県立大学の講師と株式会社ワークシフト研究所の取締役という、経営学研究者とビジネスマンの2つの顔をもつ国保祥子さん。「育休プチMBA勉強会」「フューチャーセンター」の運営など、コミュニティによる人材育成を通して、社会問題の解決を目指しています。

・前編の「人材の育成を通して社会問題の解決を目指したい」はこちらから>>

・中編の「経営者思考のトレーニングで時間の制約は解決できる」はこちらから>>

 第3回目の今回は、コミュニティによる人材育成のような活動に必要な場づくりやイノベーションの方法など、さまざまなお話を聞きました。

学生ならではの緩い雰囲気が議論を活性化する

ーさまざまな立場の人間が、課題解決やオープンイノベーションによる創造を目指して対話する「フューチャーセンター」を、静岡県立大学国保ゼミでも2011年から開催しています。その運営について教えてください。

国保ゼミの「フューチャーセンター」は、地域の社会人と学生がともに地域の課題を検討することを目的に立ち上げました。いまは運営を学生に任せています。ワークショップのプログラムをつくったり、そのために使うワークショップ技術を選んだり、当日の進行なども含めてすべてです。

最初は自分ひとりでは限界があると思い、恐る恐る任せたのですが、蓋を開けてみたら、学生が運営したほうがいい場になることが多かったんですね。

その理由を分析した結果、アイデアをつくり上げていくようなイノベーティブな対話が必要な場というのは、心を開いて話せるような雰囲気じゃないとダメなんだとわかりました。発言者が「くだらない案かもしれないけどまあいいか、とりあえず言ってみよう」と思えるようなハードルの低さが、発言や、ひいてはアイデアの量を増やしていくんです。これを私は「戦略的不完全性」と呼んでいます。会社のような改まった場ですと、いいことを言わないといけない、と身構えてしまい発言の数が減ってしまうのですが、学生がゆるく「なにかありますか?」と進行すると、アイデアがポンポンと出てくる。学生はそういう、場の雰囲気を緩くして発言のハードルを下げるという役割を担ってくれます。

「フューチャーセンター」に静岡の乾物メーカーが新商品の開発について相談に来られたことがありました。これをテーマにしたディスカッションで出たアイデアが、たとえば海苔を白くしてもいいんじゃないかとか、軍艦巻き専用に形状を細くしてはどうか、その軍艦巻きにもイクラとウニだけでなく、ツナやコーンなどをのせたら手軽なんじゃないか、それでパーティをやったら楽しいよね、というふうにどんどんアイデアが広がっていきました。

こんな感じで、社会人だけの新商品開発会議では10個程度しか出ないアイデアが、学生を主体にすると、3、4倍のアイデアが軽く出てくるんです。

もう1つの学生が担っている役割に「ゼロベース思考」があります。社会人はどうしても自分の経験に縛られたり、実現可能性や予算や組織のしがらみなどを議論に持ち込んだりしてしまいがちです。一方で実務経験のない学生は、そういったものに縛られないアイデアをシンプルに考えてくれるんです。お金がないからできないんじゃなくて、お金がなくても実現する方法を考えてもくれます。

イノベーションに必要なのはテーマとネットワーク

ーそのようなイノベーションを生み出すのに必要な条件とはどういうものでしょうか?

これは個人的な意見ですが、テーマとネットワークだと思っています。テーマをもった瞬間に、いま持っているものの価値が変わって見えます。

たとえば「会社をつくる」というテーマをもった瞬間に、知り合いに会計士がいたとか、あの人に相談したらお客さんを紹介してくれそうだとか、それまでただの人のつながりにしか見えていなかったものが、豊かな資源として見えてくるんです。

成功するアイデアは、9割の人間に呆れられるようなもの

ー成功するアイデアとはどういうものでしょうか。

これも個人の意見ですが、9割の人間には「ハア?」と呆れられるんだけれど、残りの1割の人が「ぜひ欲しい!」と言うようなものですね。

たとえば、「育休プチMBA勉強会」などもまさにそれ。多くの人に「育休中にビジネスを勉強したいなんて人がいるの?」と言われましたが、目の前には実際にお金を出してまで学ぼうとする人がいる。そのギャップに、これはいけるんじゃないかなと思いました。

成功するイノベーションや新規事業開発の1つの指針は、「あったらいいな」ではなく、「なんでそれ、いままでなかったんだろう?」と思われるようなものだと思っています。

それまでは誰も思いつかなかったけれど、いったん生み出された後には、それがないと困ってしまう人がいるようなもの。

ですから、「育休プチMBA勉強会」のアイデアを話して「なんでそれ、いままでだれもやらなかったんだろうね」という意見をいただいたとき、このアイデアの可能性を感じました。

    

「育休プチMBA勉強会」をほかの理論で分析すると、ヨーゼフ・シュンペーターのイノベーションの定義「ニューコンビネーション(新結合)」にもあてはまっていたんですね。これは既存の要素の新しい組み合わせのことで、「育休」と「経営」という要素自体はもともと世の中に存在していたけれど、それらのコンビネーションはそれまで存在しておらず、それを「ワークシフト研究所」が初めて提供したのだと思っています。

ですからイノベーションを生み出したいときには、テーマになる要素をいろいろ差し替えてみて、新しいコンビネーションを探してみることが大切だと思います。

「困っている問題」をベースにしたアイデアは成功しやすい

ー成功するアイデアの生み出し方のコツはありますか?

現状で誰かが困っている「問題」をベースに考えると事業のアイデアが生まれやすいですね。

「問題」というのは、「現状とあるべき姿とのギャップ」のことを示すので、あるべき姿を描けない人には問題を見つけられません。逆に問題さえ見つけられれば、みんなで知識や知恵を集め、それを解決していくことができます。

たとえば、「子育てしていても普通に仕事でも活躍できる社会があるべき姿だと思うんだけど、なぜいまそうなっていないの?」という問題が見つけられたから、「ワークシフト研究所」の育休をテーマにした活動が生まれたんですね。

個別具体的なテーマを徐々に一般化するのがコツ

-SYNQAのような協働の場を活かすためのコツはありますか?

イノベーションを求める際に場をうまく活かすには、できるだけ具体的なテーマを持ち込んだほうがうまくいきます。

たとえば子育て中の女性が抱える悩みのような個人的なテーマを持ち込んで、そこから解決するためのアイデアを出しつつ視点をあげていくと「なぜ女性はそういう問題を持ってしまうのか」「女性にかかわらず制約人材が活躍するためには職場はどうあるべきか」など、より広い構造的な問題に発展させることができる。

これを最初から、「女性が平等である社会を目指すには」と抽象的な問いとして投げてしまうと、ディスカッションが成立しにくいんです。

最初は個別具体的なテーマにしておき、徐々に一般化すると、だんだんかかわれる人間も増えていって、ネットワークをうまく使えるようになるとも思います。

「育休プチMBA勉強会」もいろいろな企業や職種の方が参加するコミュニティですが、そこでの些細なディスカッションでも、会社にいるだけではなかなか思いつかないようなアイデアがたくさん出ています。

いろいろな立場の人がアイデアを持ち寄れる場には、イノベーションを生み出す大きな可能性を秘めていると思います。

企画・編集・撮影:納見 健悟(フリーランチ)

企画・執筆:矢野 優美子(ユウブックス)

国保祥子(Akiko,KOKUBO)

経営学博士。株式会社ワークシフト研究所取締役、育休プチMBA代表。

静岡県立大学経営情報学部講師、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科非常勤講師、早稲田大学WBS研究センター招聘研究員、上智大学非常勤講師。

外資系IT企業での業務変革コンサルティング経験を経て、慶應ビジネススクールでMBAおよび博士号を取得。

民間企業や行政機関の経営人材育成プログラムの開発および導入に従事し、Learning Communityを使った意識変革や行動変容を得意分野とする。

2011年に地域の社会人と学生が共に地域の課題を検討する「フューチャーセンター」を、2014年には育児休業期間をマネジメント能力開発の機会にする「育休プチMBA勉強会」を立ち上げる。1児の母。

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