経営者思考のトレーニングで時間の制約は解決できる|ワークシフト研究所 国保 祥子 氏インタビュー(中編)

2016/10/13 インタビュー&レポート

静岡県立大学の講師と株式会社ワークシフト研究所の取締役という、経営学研究者とビジネスマンの2つの顔をもつ国保祥子さん。「育休プチMBA勉強会」「フューチャーセンター」の運営など、コミュニティによる人材育成を通して、社会問題の解決を目指しています。

前編の「人材の育成を通して社会問題の解決を目指したい」はこちらから>>

 第2回目の今回は、出産後に復職した女性が能力を発揮するための方法をお聞きしました。

伝え方と順番を変えるだけで上司の印象が変わる

—第1回目ではワークシフト研究所の立ち上げまでのお話をお聞きしました。ワークシフト研究所はおもに「育休プチMBA勉強会」を非営利活動として行いながら、レクチャーや法人研修など企業向けの活動を事業として行っています。企業向けの活動ではどのような社会の変化を感じますか?

経済産業省から依頼があり、育休中の方を対象にした研修を行ったこともあります。

官公庁に勤めている女性は、もともと仕事と育児を両立したくて公務員になることを選んだ方が多く、出産後に復職する数も多い。数が多いぶん、復職後も引きつづき活躍してもらわなければ職場は困りますので、制約と業務責任を両立させるために必要な思考トレーニングを提供させていただきました。

オファーをいただく企業の人事部の方からは、女性のモチベーションの低さを訴えられることも多いのですが、「育休プチMBA勉強会」を通じて女性の思考回路が理解できるようになった結果わかったことは、女性の多くはむしろやる気はすごくあるんです。

ただ、伝え方や表現方法を知らないだけなんですね。

例えば、復職した女性は、まず自分の権利を先に主張しがちなんです。

「残業はできません」「子供が病気になったら休ませていただきます」などが代表例ですが、これは会社側からは「やる気がない」、と捉えられて見放されてしまう可能性があります。ですから、モチベーションを先に伝えることが大切です。

「やる気はあるのですが、保育園へのお迎えがあるので5時にはあがりたい」「責任を果たしたいという気持ちは強いのですが、子どもが病気のときには看病するために休ませていただきたい」というふうに、順番と伝え方を変えるだけで、会社側の印象もまったく変わります。

やる気があり成果をもたらす人材には冷たくないですから、たとえば家でも仕事をできるように配慮するなど、一緒に問題の解決法を考えてくれるようになるんです。

また、復職後の女性はバックオフィスや企画職といった社内業務に行きたがるのですが、じつは営業などの売上に関係する部署の気持ちよく働けると思っています。

そのほうが会社にもたらせる利益を売り上げなど具体的な金額で表すことができるため、成果さえ出していれば余計な気を遣わなくてすむからです。

管理職が制約人材を理解する必要がある

—成果で評価できるということですね。それには管理職側の意識の変化も必要だと思われますか?

いくら復職者のモチベーションが高くても、管理職側が意識を切り替えられていないと活かせないので、管理職の意識改革は大きな課題です。

ただ経営者は、意外と時間制約のある働き方のメリットを理解していることが多い。

残業しなくても成果を出してもらえるなら、そのほうがありがたいですよね。

私自身も出産前は21時、22時まで普通に仕事をし、残業しないと成果が出せないと思っていて、出産後に5時間ほど労働時間が失われると気づいたときには愕然とした覚えがあります。

ですから管理職の意識が変わらないのも理解できます。

でも、たとえば夜に飲み会があるなど、お尻が決まっているときのほうが生産性が高いという覚えはありませんか?限られた時間で成果を求められると、仕事の仕方自体に頭を使うことになる。

時間があると、逆にそれを考えないのです。

制約がある人とない人がいるのではなく、すべての人に制約はあるという前提で管理すべきであるということを伝えていく必要があると思っています。

経営者思考のトレーニングで仕事の優先順位をつけられるように

—制約のあるを受けた人材が能力を発揮するには、どのような知識が必要でしょうか?

「育休プチMBA勉強会」で重きをおいているのは、マーケティング理論や戦略論などの経営技術ではなく、経営者思考のトレーニングです。

問題を経営者・管理者目線で考えるとどうなのか、という思考をひたすらトレーニングする。それができると、仕事の優先順位をつけ、全体に支障が出ない仕事の取捨選択が可能になってきます。

自分目線でしか仕事をとらえられないと、すべての仕事に全力を注いでしまったり、相手がうるさいから早く終わらせようなどと、余計な気づかいをしがちです。

でも、じつは管理者目線では、本人が頑張って仕事を抱え込んでしまうよりも、手放してもらうことで組織の業務に滞りがないほうが嬉しい。

そのような大局的な視点で仕事について理解できるようになります。

時間や場所の「制約」はだれにでも起こりうる

—「制約人材」という言葉は、国保さんが考えられたものだそうですね。この言葉を使うようになったきっかけを教えてください。

そこで、いままで手掛けてきた管理職研修のコンテンツを提供して、2014年7月からその友人の自宅マンションを会場に「育休プチMBA勉強会」を始めました。

「育休プチMBA勉強会」のコンテンツを開発する際に、育児中の女性が働くうえでの課題うえでのたいへんさを分析したんですね。

すると、無尽蔵に時間を使うことができないという、この1点だけが原因だとわかったのです。

現在の経営陣・管理職の方たちは、無尽蔵に時間を使えることを前提としたマネジメントしか知らないから、「17時で帰ります」と言われた瞬間に、その人にどこまで仕事を任せたらいいのかわからなくなる。

ただ働ける時間に制約が生まれてしまう可能性は、誰にでもあります。

親御さんの介護を抱えることになったり、自分が病気や怪我で倒れることもあるでしょう。

それに、みんな自分のプライベートの時間を充実させていきたいもの。

昨今話題になっている子育て中の女性と同じ職場の独身女性ばかりに仕事のしわ寄せがくるというのも問題だし、女性は早く帰れるのに男性は帰れないことでその奥さんに育児の負担が偏ったりするのもおかしい。

ですから制約はすべての人がもっているものだと考えるべきなのです。

「ワークシフト研究所」は制約をもつすべての人が能力を発揮できるような環境づくりをミッションとして掲げています。

企業に女性への教育投資効果を気づかせたい

—企業からのニーズの変化はありますか?

現在、妊娠・出産を機にした退職は減っているのですが、復職後1年以内に仕事と子育てを両立できずに辞めてしまうパターンが増えています。

それをどうしたらいいか、解決策がわからず困っている企業がとても多く、オファーの数も増えていますね。

そのためには先ほどお話したような、経営者思考のトレーニングが解決策になるのですが、その教育投資の意味に気づいてない企業が多いですね。

女性個人の問題ではなく、あくまで経営の観点から、これは「人材育成への投資で解決可能な問題である」ということを、昨年から力を入れて発信しています。

コミュニティで人を育てる仕組みをデザインする

—今後の国保さんの目標を教えてください。

ふと気づけば、ずっと人を育つ仕組みをつくりつづけていて、「育休プチMBA勉強会」や、学生を主体とした「フューチャーセンター」の活動などもその手段の1つなんです。

単発の研修も大切ですが、それよりもコミュニティや関係性のなかで人を育てるほうが効果があるので、そのような組織で人を育てる仕組みのデザインを極めていきたいと思っています。

我が社が提供する研修も、人を育てるコミュニティづくりを目的としてデザインしています。

一方、女性は出産を視野に入れるといつかキャリアを中断せざるを得ないので、長期的なキャリアプランを描くことが難しく、また、昇進も所与ではないので上司の視線を学ぼうという意識に欠け、経営者思考を学習する機会を持たない人が多い。その結果、どうしても視点が低くなってしまう。

しかし長く働くことを前提にしている女性や、ビジネスススクールに来るような女性は、限りなく男性と同じ考え方をします。

ですから女性がキャリアプランや学習意識をもてない職場環境が問題の本質。

女性が育つ仕組みさえつくれれば、彼女たちも成長します。そして多くの企業では、社内だけではロールモデルが少ないので、社外の人間とつながれるネットワークを構築し、学習機会をつくり、女性の能力開発につなげていきたいと考えています。

企画・編集・撮影:納見 健悟(フリーランチ)

企画・執筆:矢野 優美子(ユウブックス)

ご利用案内

月別アーカイブ

カテゴリーアーカイブ