人材の育成を通して社会問題の解決を目指したい|ワークシフト研究所 国保祥子氏インタビュー(前編)

2016/09/01 インタビュー&レポート

静岡県立大学の講師と株式会社ワークシフト研究所の取締役という、経営学研究者とビジネスマンの2つの顔をもつ国保祥子さん。「育休プチMBA勉強会」や「フューチャーセンター」の運営など、コミュニティによる人材育成を通して、社会問題の解決を目指しています。

第1回目の今回は、現在の活動に至るまでのプロセスをお聞きしました。

ボランティアの非効率性に疑問をもち、ビジネスの最前線に飛び込んだ

—経営学研究者として大学講師をしながら、「育休プチMBA勉強会」を始め、それがきっかけになって株式会社ワークシフト研究所を立ち上げたと聞いています。そのプロセスを教えていただけますか?

学生の頃からいままでずっと、社会に役に立つ仕事をしたいと考えていました。大学生のころはNPOやNGOでのボランティア活動に携わっていて、タイに小学校をつくる活動に参加したこともあります。

ただそのうちに、イデオロギーの対立だったり、非効率性などボランティア組織特有の問題にいろんな疑問が湧いてきて。もっと効率的な動き方を学ぶために、卒業後はお金の世界に行こうと考えて、就職先には外資系IT企業を選びました。

就職した企業では、クライアント企業の業務改革をお手伝いする仕事をしていました。IT関連とはいえ、クライアント企業の経営陣や管理職と直接、経営戦略も鑑みたやりとりを行う必要がありました。ITとビジネスの両方の知識が必要とされていたのですが、じつは私はあまりITが得意ではなかったので、今後も仕事をつづけるうえではせめてビジネスについて詳しくないとまずいと思い、またまわりの同僚たちもMBAを持っていたこともあって、MBA取得が可能な慶應義塾大学大学院経営管理研究科の修士課程(慶應ビジネススクール)に進むことにしました。

修士課程修了後はビジネスに戻るつもりで入学したのですが、結果的に博士課程に進み、研究者を目指すことにしました。その理由は修士論文を書いているうちに、研究がとても楽しくなったのと、もう1つ、研究者として論文や本を発表することで、コンサルタントとして個別のクライアントのために活動するより多くの人の役に立てるのかもしれないと考えたからです。

人を幸せにするビジネスを増やす経営学者を目指して

—修士過程ではどんな研究をされていたのでしょうか?

現在までずっとつづけているテーマでもある、ソーシャルビジネスについての研究をしていました。代表的なものですと、料理のつまものを扱う「葉っぱビジネス」で有名な徳島県上勝町の「いろどり」についてのリサーチを初期から行っています。上勝町に行ったとき、おばあちゃんたちが「これ、1枚100円」と、楽しそうにお金の話をしているのを見て、経済は本来、人を幸せにするツールなんだと実感しました。

学生時代のボランティア活動のように、それまで私が携わってきた「社会的な活動」では「理念が大事でお金は二の次」だと考える人が多かった。でもこういう事例のように人を幸せにするビジネスもある。私はそんなソーシャルビジネスの事例をもっと世の中に増やしていく経営学者を目指そう、と思ったんです。

育休中の友人との出会いが「育休プチMBA勉強会」のきっかけ

—博士課程を終了後には、大学の教員として働き始められました。

そのほかにも、博士課程の在籍中から企業を対象とした管理職研修の講師をしており、修了後も引きつづき、大学の教員と併行してその仕事もつづけていました。

その頃の私は働く女性に対して、いまとまるっきり違う見方をしていました。というのも、企業での研修参加者の99%は男性。女性はほとんどいなかった。人事部の方からも、女性は誘っても参加してくれず、仕事に対する意識やモチベーションが低いという話を聞いていました。ですから私もそのように思っていたし、ましてや出産すると女性は子育てに専念したがり、仕事は二の次になるものだと思い込んでいたのです。

そんななか、自分も出産し育休を取ることになり、その頃出会った育休中の友人に、「経営を勉強したい」という相談を受けました。出産してなお仕事に対して意欲的であることに驚き、よくよく聞いてみると「1人目の育休が終了した復職後の第2子妊娠中にとても営業成績が良くなった。保育園にお迎えに行く時間もあって、仕事に掛けられる時間も限られているため戦略的に動いていたら成績が上がり、楽しくなって、もっと勉強したくなったんです」と言うのです。

そこで、いままで手掛けてきた管理職研修のコンテンツを提供して、2014年7月からその友人の自宅マンションを会場に「育休プチMBA勉強会」を始めました。

1回目の参加者は6人でしたが、4カ月後の2014年11月、情報サイト「PRESIDENT Online」に記事が掲載されると、参加者はどっと増え、40人もの方から応募がありました。これはマンションに収まりきれないと会場を借り、さらにそれまで参加してくださっていた約30人の育休者を集めて運営チームを組織し、2015年1月からは参加費をいただきながら本格的なかたちで運営することにしました。

「育休プチMBA勉強会」運営が復職のための訓練に

—「育休プチMBA勉強会」は当初よりずっとボランティアで運営されています。本格的な運営を開始されたときに苦労した点はありますか?

運営当初は混乱した状態で、とても大変でした。ただこれは、運営メンバーにとっては勉強会で学んだことを活かす実践の場にもなったんですね。制限された時間を活かして仕事をする、復職のためのいい訓練になりました。

そして失敗もありましたが、それを指摘したときの修正はとても早かった。たとえば、よくある仕事の「抱え込み」。勉強会の運営に際しても、やはり皆、最初は抱え込んでしまっていました。ただそれを指摘すると、すぐに修正できた。それは事前に知識が入っているからです。概念を知らないと、それが「抱え込み」であることも理解できず、どうしていいかもわからないものなのです。

メンバー同士はほとんど直接顔を合わせる機会もなく、Facebookグループでのやり取りや、スカイプでのミーティングで仕事を進めていきました。それぞれがその体験のなかで、たとえ時間が限られている中でも業務責任を果たすことはできるのだという確信を持つことができたと思います。

意図したわけではないのですが、結果的に大学教育でもよく用いられるPBL(project based learning)というプロジェクトベースの学習方法を実践したかたちになりましたね。

企業研修に採用されたことが法人化のきっかけ

2015年1月に「育休プチMBA勉強会」の本格的な運営を開始しましたが、そのわずか3カ月後の4月にはすべての運営メンバーが復職することになっていました。その後の運営をどうするか悩んでいたところ、慶應ビジネススクールの後輩にあたる小早川優子(現・ワークシフト研究所代表取締役)が参画してくれることになり、二人でつづけることにしたのです。

ボランティアとして運営に参加してくれる育休中の方も現れました。さらに2015年秋には企業研修として取り入れたいというオファーがあったため、非営利の活動として回していくのが難しくなり「株式会社ワークシフト研究所」を立ち上げて法人相手の事業を担うことにしました。

—最初にオファーがあった企業とは、どのようなつながりがあったのでしょうか?

ほぼ同時に3件のオファーをいただきました。1件は経営者の集まりで知り合った方からの直接のオファー。もう2件は、育休プチMBAの受講者が勤務先の社長に紹介してくださったことが理由。このような受講者からの紹介というパターンで企業からのオファーが増えていきました。

現在ワークシフト研究所は、経営学のレクチャー付き講義や法人研修などの対企業向けの活動を事業として行う一方で、非営利事業として「育休プチMBA勉強会」を監修しています。対企業向けの業務のオファーはますます増えており、社会の需要を感じています。

中編の「経営者思考のトレーニングで時間の制約は解決できる」はこちらから>>

企画・編集・撮影:納見 健悟(フリーランチ)

企画・執筆:矢野 優美子(ユウブックス)

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